輸送

乗降人員と輸送人員

概説

王武電鉄の2019年度年間輸送人員は4億565万人にのぼり、1日当たり111万人の計算になる。同程度の路線延長を擁する京王電鉄(6億7257万人)や京急電鉄(4億8219万人)とは輸送規模が見劣りするが、片方向の流動が強いためビフォーコロナのラッシュ時には著しい混雑が観察できた。

王武本線(早稲田~王武行田)

王武本線の駅間輸送人員グラフは王子を頂点に両側に裾野を広げており、輸送形態としては典型的な郊外電車に分類される。王子は副都心線に乗り入れる分界駅であるほか、京浜東北線とも乗り換えが可能であり、朝の改札口は丸の内や品川をはじめとする山手線東側のビジネス街に向かう通勤客でごった返す。実際、王子駅の乗降人員に占める副都心線直通客の割合は51パーセントであり、残りの49パーセントにあたる247,528人は純粋な乗降客である。都心側の最大ターミナルが山手線接続駅ではないという点が、王武電鉄の輸送面での特徴といえる。

都心側の乗降人員で王子に次ぐのは山手線に接続する大塚であり、王武電鉄全体では7位にランクインする。三田線(西巣鴨)と接続する新庚申塚、有楽町線(東池袋)と接続する水久保が約3万人で後を追うが、大塚の3割程度と中規模にとどまっているため、朝ラッシュの輸送施策の主眼は郊外側から王子・副都心線と大塚へのアクセスに絞られている。

郊外に目を向けると、武蔵野線(南大門)との乗換駅である下大門が乗降人員トップに食い込み、全体3位の約14万人を数えている。武蔵野線と王武本線は双方向に乗り換えが活発で、日中の上り列車でも乗車と降車が均衡する。本線内の乗降人員上位は鳩ヶ谷、岩槻、王武川口、蓮田と続き、市域の中心部かつ郊外住宅地からの路線バスが多く乗り入れる拠点駅ほど乗降客が多い傾向にある。

そのほかの駅の乗降人員の規模は蓮田を境に大きく変わる。都心に近いほど鉄道での通勤・通学率が高いほか、昭和後期の旺盛な住宅需要に応えるべく住宅団地が林立したため、都心通勤圏の蓮田以南は小駅でも約2万人から4万人程度の乗降人員を誇っている。特筆すべきは王武野田で、埼玉スタジアムの最寄駅であることから定期外の利用客が多いほか、特定日に旅客が集中するため、輸送上特段の注意を要する。

蓮田以北では都心の影響が薄れ、乗降人員も1万人を割る駅がほとんどである。白岡や蓮田で宇都宮線に乗り換え大宮や浦和、東京都心へ向かう乗客も多く、朝ラッシュの蓮田では乗客の入れ替えがみられる。乗降人員が1万人を上回るのは町の中心部に位置する白岡、菖蒲町、騎西町と、近傍に工場群が立地する黒浜のみである。

王武大宮線(大宮~春日部)

大宮線は短距離ながらも、両端の大宮・春日部と中間の岩槻が乗降人員10万人以上を誇り、全線にわたって高い輸送密度を誇る。大宮ではJR各線と、岩槻では王武本線と、春日部では東武スカイツリーラインと接続し、都心から放射する各線にアクセスする役割を演じているほか、線内各駅や東武線から大宮へ、あるいは岩槻を経由して東京都心へ通勤する流動が重なり、比較的単純な対都心通勤輸送が主体の王武本線とは異なり複雑な輸送形態である。

王武荒川線(王子~三ノ輪)

都心区間でありながら輸送密度は12,488人と低く、王武本線の末端区間と同水準である。都心にアクセスしないことから通勤客は少なく、全線を通じて定期外比率が高い傾向にあり、下駄履き電車として日中のこまやかな需要を拾っている。線内では南北線に接続する熊野前の乗降客数が比較的多く、同じく乗換駅の町屋が続く。

種別と停車駅


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停車駅設定の考え方

王武電鉄では、原則として優等列車の停車パターンを1通りに抑え、通過運転区間の調整によって派生種別を設けている。輸送形態が複雑化しやすい大手私鉄の中では少数派だが、同様のパターンは東武スカイツリーラインの無料優等列車や東急田園都市線でみられる。王子~王武赤羽間が併用軌道だった時代に編成長の制約から分割・併合運転が常態化していた背景もあり、停車駅のパターンだけでも簡素化したかったという意図が汲み取れる。

大元となる優等列車の停車パターンは、現在の快速急行の停車駅に表れている。停車駅の選定にはさまざまな観点からの検討を要するが、王武本線では以下の要因に分類できる。

(1)周辺の駅と比較して乗降人員が多い

停車駅選定の際に最も重視される観点であり、説明するまでもないだろう。区間ごとの各駅停車の運行本数は区間の平均的な輸送密度に左右されるが、それでは周辺の駅よりも乗降客数が多い駅では運行本数が不足してしまう。王武電鉄では末端の駅でも東京との往来比率が比較的高いため、各駅停車だけでは応えられない輸送需要に優等列車の設定で応えている。

(2)緩急接続が可能

優等列車の役目は、停車駅間の速達サービスの提供にとどまらない。通過駅の利用客も、各駅停車と優等列車を乗り継ぐことで、結果的に短時間で目的地に到着できる場合がある。停車駅選定にあたっては、こうした通過駅に対する利点も最大限引き出されるように配慮されている。特に緩急接続が可能な王武大門については、乗降人員が多い隣駅の王武野田を差し置いて快速急行停車駅となっており、東京方面からの快速急行と各駅停車を乗り継ぐことで王武野田~真福寺間の各駅へスムーズにアクセスできるように工夫されている。

(3)歴史的経緯

王武赤羽は乗降客数40,506人と、各駅停車しか停車しない2駅隣の神谷橋を3,000人程度下回っているが、通勤急行・通勤快急以外の全列車が停車する。現状では優等列車を停車させる特段のメリットはないが、かつて併用軌道区間の入口として6両や9両の優等列車が全停車し、都心に向けて3両ずつに分割されていた拠点駅だったことから、現在も引き続き停車させている。優等列車の停車駅を削減するダイヤ改正は周辺自治体の反発を招くことから躊躇われており、王武電鉄では通勤時間帯に王武赤羽を通過する列車を設けるにとどまっている。

これらの事項から決定された快速急行の停車パターンは急行や準急の停車駅に反映されていくが、この際に制約となるのがホーム有効長である。

併用軌道解消と副都心線開業に伴い、王武電鉄では従来の3両編成主体の運行が改められ、偶数両編成を組むこととなったが、このとき6両対応のホームを8両対応に、さらには9両対応のホームを10両対応に改める必要性が生じた。郊外側の駅ではホーム拡張が可能だったが、住宅密集地では空地が少なく土地の買収や踏切道の移設に難航し、現在でも8両非対応や10両非対応の駅が多く存在する。現行のダイヤでは準急停車駅を8両対応駅と、急行停車駅を10両対応駅とおおむね紐づけており、編成両数と種別の結合を重視している。直通先の東急東横線では各駅停車が8両、優等列車が10両を原則としており、4社直通における種別変更パターンは編成両数の制約により限定されている。なお、編成両数と充当される種別の対応は以下の通りである。

種別解説

各駅停車

全区間にわたって運転される列車種別。日中は早稲田~王武大門・岩槻・蓮田と大宮~春日部の系統が6両、荒川線・見沼線が3両で運転されるほか、大宮~王武行田のローカルには4両転換クロス車が充当される。優等列車の各駅停車区間と合わせると蓮田以南は毎時6本以上運行されているが、蓮田~王武行田は毎時2本の運転である。

準急

いわゆるサバー区間の利用客を意識した基幹種別。都心側で通過運転を行い、武蔵野線と接続する下大門以北では各駅に停車する。日中は急行・快速急行の合間に入り15分間隔で運行、郊外側終点の岩槻と蓮田まで先着し、都心への足として機能する。8両編成での運転のため副都心線・東横線・みなとみらい線内では各駅停車となる場合が多い。

急行

王武電鉄の花形種別。副都心線直通列車は10両編成が充てられ、日中は元町・中華街~春日部(みなとみらい線・東横線内特急)が30分間隔で運行される。王武大門発着の出入庫便をはじめ、一部の列車には8両編成があてがわれる。

快速急行

全区間で通過運転を実施する、急行の上位種別。日中は元町・中華街~王武行田(みなとみらい線・東横線内特急、副都心線内急行)が毎時2本運行され、王子~岩槻間では急行と合わせ15分間隔での運転となる。蓮田より北では各駅停車への接続を行わず、規模の大きい主要駅に毎時4本の有効列車を提供する役割に徹している。

通勤急行・通勤快急

平日朝ラッシュ上りのみ運転。遠近分離のため、王武川口と王武赤羽を通過する。平日朝の春日部・都心間の輸送は準急が担っているため、春日部発着の列車は設定されていない。

おうぶライナー

朝夕の通勤時間帯に運行される有料列車。日中大宮~王武行田で運用される4両転換クロス車が2本繋がり、8両編成として新宿三丁目~春日部・王武行田を走る。王武電鉄としては発着駅を渋谷にしようと試みていたが、渋谷駅を管理する東急電鉄が座席指定券の発売に難色を示したため現在の運行形態となった。副都心線とまたがって乗車する場合は530円、王武線内完結の場合は420円の座席指定券が必要となる。下りの王武大門から先は指定券不要・全車自由席となる。

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